ムシカ・ポエティカ

ムシカ・ポエティカ通信


ムシカ・ポエティカより皆様へ 秋のご挨拶を
 心地良い秋の東京からミネアポリスに来ました。なんとこちらはマイナス2度、すでに雪にも見舞われびっくりしています。皆様いかがお過ごしでしょうか。

演奏を終えてバッハに感謝!
 去る9月15日に行われましたJ.S.バッハ<ロ短調ミサ曲>はお蔭様で非常に充実した時となりました。カテドラルにお越し下さいました皆々様、応援して下さいました方々、そして共に演奏して下さった諸兄諸姉に心より御礼申し上げます。ここ数年、本郷教会の夕べの音楽・Soli Deo Gloriaにおいてバッハのカンタータを一曲ずつ演奏してきたことによって、バッハのテキストに対する姿勢、曲全体に流れるエネルギーの質、部分部分に傾ける情熱、全体を構成していくパワー、首尾一貫性といった彼のさまざまな特質を知らされ、それらが<ロ短調ミサ曲>という巨大な作品の謎を解く鍵となりました。これからもカンタータの演奏を続けながら、バッハ音楽に隠されているもの、知らされてはいないことを探って行きたいと思います。

羽鳥典子 メッツォソプラノリサイタル ~ロマンの系譜~
 さて来る10月29日[日]午後二時より羽鳥典子メッツォソプラノリサイタルが銀座王子ホールにて行われます。良く考えられた興味深いプログラムですので是非皆様にもお聴き戴きたくご案内申し上げる次第です。

 さらに11月17日(金)には晩秋恒例の<レクイエムの集い>が東京カテドラル聖マリア大聖堂において午後七時より催されます。
 フランツ・リストの名と宗教音楽が即座に結びつくということははなはだ稀なことであろうと思われます。彼の周辺に漂う雰囲気は「華やか」「ヴィルトゥオーゾ」「ピアノ」「恋愛沙汰」などなどで、彼が50歳を過ぎ長年の望みが叶って下級聖職位の叙階を受けた、という事実も長らく正当には受け入れられませんでした。

フランツ・リスト<キリスト>より
 わたくしはある日、リストの<キリスト>というオラトリオに気を惹かれ、早速シュッツ合唱団の練習カリキュラムにこの曲を採り入れてしばらく譜読みを続けました。このオラトリオはキリストの降誕、生涯、受難を綴った壮大な作品で、オーケストラもフル編成、一挙に上演するのはなかなか難しい、と思いながらも、オルガンと合唱の部分(主の祈り、山上の説教など)を機会を見つけては演奏していました。

フランツ・リスト「十字架の道行き」
 昨年の<レクイエムの集い>では菅哲也氏のオルガンと合唱によって<キリスト>から「至福」(山上の説教より)を、またアメリカの若いオルガニスト、グレゴリー・ダゴスティーノ氏と共に「十字架の道行き」を上演、舞台演出のせいもあったのか、このリストの作品に対する反響は凄まじいもので、一同さらなる敬意をリストに対して抱く結果となりました。

レクイエムの集い
 そして今年、もっとリストを知りたいとの願いから彼の<レクイエム>を取り上げます。
 この作品はリストの母親とリストより先に亡くなった二人の子供、ダニエルとブランディーヌのために作曲されました。各声部にソリストを含む男声四部合唱(T1,T2,B1,B2)とオルガン、それに任意の金管合奏(トランペット1,2,トロンボーン1,2)、にティムパニーという編成で、Requiem aeternam~Dies irae~Offertorium~Sanctus~Agnus Dei~Libera me と進みます。ソリストも先唱者から四重唱、そして合唱へ、または先唱者から合唱へという形でソロのアリアなどはなく、教会音楽そのものといえましょう。リストは、この曲のなかに多くの不協和音や無調的な音の運びを用い、すべてを放棄したい、という思いや諦めの気持ち、この世への憤り、新しい音楽への飛躍といった様々な要素を提示しています。リストにとって宗教音楽は名人の手すさびといったようなものでは決してなく、むしろ彼の最も根源に位置するものでした。彼は音楽を「神を賛美し、有限と無限という二つの世界に仕えるもの」と 捉え、「生きている愛しき人々を光で照らし、亡くなった愛しき人々を『精神的にも肉体的にも』安らかに眠れるようにしなくてはなりません。」(福田 弥著<リスト>音楽之友社 131ページ )と語っています。
 わたくしたちが例年行っている<レクイエムの集い>の趣旨はリストの上記の言葉によって説明し尽くされています。11月17日にはリストの<レクイエム>(指揮:淡野太郎)に加えてシュッツの名作<ムジカーリッシェ・エクセクヴィエン:音楽による葬送>(指揮:淡野弓子)を演奏いたします。また、追悼なさりたい方のお名前を当日のプログラム小冊子に記し、記念とさせて戴きたく、追悼者の掲載をご希望の方は、申込書にご記入の上、11月7日(火)までにムシカ・ポエティカ宛FAX(03-3998-5238)にてお申し込み下さい。またWEB SITEよりのお申し込みも受け付けております。
 では皆様、心静かな秋をお過ごし下さい。

                2006年10月17日
                    ミネアポリスにて 淡野弓子


追伸
 私事ながらひとことご報告申し上げます。
 少女時代より皆様にお見守り戴き、現在はミネアポリスにてソプラノ歌手として活動しております淡野桃子に10月14日長女が誕生致しました。名前はAudrey Akane Niemi(オードリー・茜・ニーミ)といいます。肌の色は白、髪の毛はコーヒー色、瞑想的な表情で遠くを見るブルーブラックの眼はまだこの世を定かには認識しておらず、40週間の胎内生活を、いやもっとずっと前の自分を思い出そうとしているかのようで、両親はもとより家族一同喜びのなかにも不思議な出来事に驚いているという状態です。皆様にはこれまでに親子ともども、すでに久しくまた暖かいご交誼を戴いております が、ここに「茜」も加えて戴ければ望外の幸せでございます。どうかくれぐれもよろしくお願い申し上げます。