ムシカ・ポエティカ

ムシカ・ポエティカ


 「ムシカ・ポエティカ」は、17世紀シュッツ(1585-1672)の作品を中心に据え、ヨーロッパの中世から現代音楽に至る道筋を研究し、演奏している音楽グループです。

 「Musica poetica」とは「音楽詩学」「音楽創作学」などと訳されるラテン語ですが、簡単にいうと「作曲」であり「音楽を作り出す作業」という意味です。
  イタリアではラッソ、モンテヴェルディらの伝統に立ち、「言葉」はどのように「音楽」となるか、「言葉」を「音楽」として表現すると、そこにはどのような世界が現出するか、ということがテーマでした。ヴェネツィアのジョヴァンニ・ガブリエリの許で、巨匠たちの、ラテン語のテキストによる対位法を徹底的に学んだシュッツが、帰国後ルターのドイツ語訳聖書を前に「この全巻を音に」という意欲をかき立てられ、生涯をその創作に捧げた結果、ここにドイツ語によるモテットの礎が築かれたのです。
  この伝統はとくに北ドイツのプロテスタント音楽を担った人々に受け継がれ、バッハはもとよりメンデルスゾーン、ブラームス、レーガーらを経て20世紀のフーゴー・ディストラーに至る強靭な流れを生み出しました。彼らは聖書の言葉を「鋭く、深く、誤解の余地無く明確に伝えよう」との強固な意志を持ち続け、啓蒙主義やヒューマニズムのなかにあっても、人間が作り出したのではない「音」、「振動」、「響き」の天然の法則に基いて音を組み立てて行きました。
  わたくしたち「ムシカ・ポエティカ」は、現在の日本においてこの精神を尊重しつつ、彼らの遺した作品を皆様にお伝えしたいと願うものです。
  声の元となる人間の身体、また人間の作り上げたさまざまな楽器の根本を探究しながら、音と言葉を注意深く選び、演奏に臨みたいと思っています。
  さらにはこの活動が、美術、文学、舞踊、映像などに携わる方々との交流、そして外国の芸術家たちとの共演を通じて、日本の新しい芸術音楽の時空へ開かれて行くことを夢見ています。
  これまでに学び得たこと、気付かされたこと、日々感じたことが、時に率直に、時には暗に皆様のお心に届くことでしょう。人類が、かつてない試練に晒されている今、わたくしたちが音楽によって共に在ることを喜び合えたら・・・。それは本来、天のみがなし得ることなのかも知れません。畏れつつ、しかし勇敢に「学びと実践」の道を進む所存でございます。皆様のお支え、ご叱正を仰ぎつつ。

2006年3月  ムシカ・ポエティカ代表 淡野弓子